先日『脳の外で考える』を読みました。
500ページ超もあり、読み通すのにかなり時間がかかりました~。
取り上げられている情報量、トピック数が膨大なので、Not for me な内容も多いのですが、自分に関係があって考察を深めたい内容もたくさん見つかるので、この本はガチでお勧めです。
本書は、脳のパフォーマンスを高めるために脳の外の環境をどう整えるか、どう活用するか、をさまざまな研究や事例から考察しています。筋肉に喩えると、筋肉を直接強くするための「筋トレ」の話ではなく、筋肉の力をうまく引き出すためのウェア、靴、気候、フォーム、コーチ、チームメイト、メンタルなどの話に当たるでしょう。
大きなディスプレイを使うと生産性が上がる、自然の中を歩くと集中力や思考力が高まる、部屋に緑を置くと集中力が高まる、など有名な話だけでなく、知らなかった意外な話も。
例えば、第 1 章で取り上げられている内受容感覚 (体内から湧き上がる感覚)を使って適切な判断を行う方法です。しょっぱなから、意外。
ざっくり言うと、脳があることを意識するより先に、無意識に体が反応 (震え、ため息、呼吸の加速、筋肉の緊張など) するものなので、体のシグナルに気付けるようになれば、判断の助けになる、というもの。証券会社の (勘が良いと言われる) 優秀なトレーダーは、このシグナルに敏感な人が多いとか。
この話を最初に読んだときは、一般人が体のシグナルに敏感になったところで何の役に立つのか?と疑問でした。が、本書を読み終わってよくよく内省してみると、思い当たる節が。地雷案件っぽい打診メールとか、辻褄が合わないんじゃないかという文章を読んでいると、ちょっと体が緊張するんです。おかしいなと思うのが先か、緊張が先かはもう少し精査する必要がありますが、緊張が先だったら、体のシグナルに耳を傾けるのも一理あるなぁ、と感じます。
他にもなるほどなぁ、と思った箇所をいくつか紹介すると…
論文や法律文書も、模倣することでうまくなる
手本となるテキストのまねは、認知的な負荷を減らせる
いずれも、本書 367 ページ。特定の分野の型に合った文章を書けるようになるには、お手本をまねるのがよいそう。
確かに、特定分野で使われる型 (論理展開とか、定型文とか) を知っているかどうかで、読み書きの負荷がぐーんと変わります。翻訳が上手なひとでも、特定分野の訳がちょっと…というのは型を知らないのが原因だったり。
自分が他の分野の翻訳に挑戦する際にはぜひ取り入れたい勉強法です。
人は他者を教えることで (たいていは、教わる側が吸収するよりも多く) 学ぶ
(本書 401 ページ)
これは、私がよくレビュー&フィードバックの仕事を引き受ける理由でもあります。フィードバックするには、相手を納得させられる理由を用意しなければならないので、かなり調査や勉強をします。目的を持って勉強するので、漫然と文法書を読むよりも記憶に残るんですよねー。
自分の主張よりも、他人の主張 (と思い込んでいるもの) に対して、より批判的な分析をした
(本書 409 ページ)
人間は自分には甘く、他者には厳しい…。客観視するために一晩おいて訳文を見直す、というのはよく言われます。「自分の主張よりも、他人の主張 (と思い込んでいるもの) に対して、より批判的な分析をした」という結論の根拠になった事例の紹介が読みどころ。
「脱出ゲーム」で組織のサイロ化を防ぐ
(本書 461 ページ)
仕事では異なる部署や部門との協力が不可欠なのに、トレーニングは部署ごと、部門ごとに行われているため、仕事でうまく連携が取れない、ということがあるそう。これは翻訳業界も一緒で、翻訳者、レビュアー、コーディネーター、PM、etc. がうまくかみ合っていない現場はそれなりにある、と感じます。
直接顔を合わせて同じアクティビティに取り組む (なんなら一緒にご飯を食べるだけでもいい) ことで、結束力が上がり、業務のレベルが上がるのだとか。
本当に~?と半信半疑なんですが、機会があれば試してみたいものです。
本書は脳を活かすヒントになりそうな事例がいろいろと載っているのですが、事例の紹介に忙しすぎて、それをどうやって他の分野で応用できるか、実際に実践できるかまではカバーされていません。読書会なんかで、これは私の仕事ではこうやって活かせそう~なんて話し合えたら楽しいかも。