もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

読書:「同時通訳者のここだけの話」

久々のブログ更新です。

 

今回読んだ本はこちら。

 

『ENGLISH JOURNAL』で連載していたコラムを編集して 1 冊にしたものです。

通訳のお仕事にまつわるさまざまなエピソードは、臨場感たっぷりで通訳になった気分を味わわせてくれます。苦労話や失敗話が多いので、大いに心臓が縮み上がりますが。

 

通訳者の心構えやテクニック、仕事の準備、クライアントやエージェントとの関係性については、読めば読むほど実務翻訳者のそれとはずいぶん違うのだな、と感じます。

 

その一方で、実務翻訳に通じる部分や、翻訳に取り入れられる部分があるのも事実です。

特に、その案件の目的を明確にして、それに沿うように通訳をする、という点。それに関連したエピソードが繰り返し出てきます。

たとえば、本書 98~99 ページに

かつて参加した通訳セミナーで、講師が、「何も足さない、何も引かない、何も変えない」が通訳の基本理念だと説明していました。

(中略)

日本企業と外国企業の交渉でのこと。(中略)中傷と捉えられかねない表現は柔らかい表現に修正して、交渉がスムーズに進むように配慮しました。この案件の目的は「言葉を正確に伝えること」ではなく、「交渉がまとまること」だったからです。 

とあります。

翻訳でも、足さない、引かない、変えないは基本理念です。翻訳を評価する際も、訳抜けや勝手な付け足し、意訳は厳しく減点されることがあります。良い訳とは、原文に忠実であるのは前提として、語彙や構文などで読者を意識して読みやすい訳、といった感じでしょうか。

 

ただ、翻訳においては、翻訳者も、クライアントも、通訳ほど「案件の目的」を意識していないような気がするのです。

たとえば、Web ページの翻訳では、目的は読みやすいページを作ることではなく、アクセス数を高めること。マニュアルは、ユーザーからの (マニュアルを読めばわかる) 問い合わせを減らすこと。マーケティング資料は、売上や契約の数を増やすこと、などなど…

クライアントが翻訳をもっと戦略的に活用すれば、それなりに業績にプラスになるパターンがあるんじゃないか?翻訳者の営業アプローチとしても有効ではないか?と思ったり。(とはいえ、成果を評価するのが難しいわけではありますが…)