もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

誤訳されがち? Financial Transaction

ここしばらく、企業の財務管理に関する翻訳文書のレビューに携わっていたのですが、立て続けに financial transaction の訳がコンテキストに合っていない?と疑われる事例に遭遇していろいろと調べたのでちょっとまとめ。

 

  • financial transaction は「金融取引」と訳されることが多い (ときどき「財務取引」) が、文脈に合わないことがある。
  • 英辞郎で financial transaction を検索した結果を見ると、大半が「金融取引」と訳されている。これが訳の根拠っぽい?
  • 日本語で「金融取引」というと、普通は「金融資産・商品 (株式、外貨、コモディティ (金、油、農作物など)) の取引」を指す。
  • 英語の  financial transaction は金融商品の取引だけを指すのか?
  • 英語版 WikipediaFinancial Transaction の項目には以下のようにあり、financial transaction の対象は金融商品に限られるとは書いていない。

    A financial transaction is an agreement, or communication, between a buyer and seller to exchange goods, services, or assets for payment. Any transaction involves a change in the status of the finances of two or more businesses or individuals. A financial transaction always involves one or more financial asset, most commonly money or another valuable item such as gold or silver.

    There are many types of financial transactions. The most common type, purchases, occur when a good, service, or other commodity is sold to a consumer in exchange for money. Most purchases are made with cash payments, including physical currency, debit cards, or cheques. The other main form of payment is credit, which gives immediate access to funds in exchange for repayment at a later date.

     

    Transaction types explained」や「Financial Transaction Definition, Types & Examples」などでも、transaction の例としてパソコン、車、家、飛行機のチケット等が挙げられている。→financial transaction とは、金銭 (的価値のあるもの) を介したあらゆる商品・サービスのやり取りを指すため、コンテキストによっては「金融取引」という訳は不適切。
  • 英語版 Wikipedia の Financial Transaction に対応する日本語版のページは「取引」。このページによると、日本語の「取引」には、広義の意味 (当事者間の契約を元に売買や役務の提供に対し金品のやり取りを行うこと) と狭義の意味 (会計・簿記の文脈で、資産・負債・資本・費用・収益に増減を生じるような事柄) がある。国語辞典等を見ても、「取引」には金品のやり取りが含まれると書いてある。→「financial transaction = (広義の意味の) 取引」で OK なケースはけっこうある (…が「取引」と訳すと一見 financial の訳を省略しているように見えてしまうので「XX取引」と訳しておかしくなっていることが多いのか???)。
  • 英単語 transaction は①金品のやり取りの意味のほか、②(業務の) 処理、③コンピューターにおけるデータの交換・処理などの意味にも使われる。ビジネスの文脈では (私がやっている IT 分野では特に?)、①②③のどの意味でも transaction が使われる可能性があり、それらが同じ文書の中で登場することがありうる。意味を明確にする目的で financial を付けているのかも (一方、日本語は ①②③それぞれ別の言葉を使う)。
  • 「財務取引」という訳は?「財務取引」というと、キャッシュフロー計算書のコンテキストでよく使われる言葉で、取引を営業取引・投資取引・財務取引の 3 つに区分したうちの 1 つ。資金調達に関連した金銭のやり取りが該当する (銀行からの借り入れ、元本、利息の返済、増資など)。→financial transaction の訳語としてぴったりハマるケースは少なそう。