はてなブログの今週のお題は「名前をつける」とのことで、他のブロガーさんが書いた「名付け」に関する投稿を楽しく読んでいます。
名付けが気になるワケ - 知識に救われたこと、多々
私は名付けにとても興味があります。
翻訳の仕事を続ける中で、名付けの手法を知っているかどうかが、実務翻訳であれ、エンタメ (フィクション) 翻訳であれ、翻訳のクオリティに直接影響する場面に何度も出会ってきたからです。
外国人の名前を訳すケースを考えてみましょう。名前を訳すだけなら音写すればそれでよい…というのもまぁそうなのですが、テキスト全体を考えたとき、人名や愛称、呼び名といった「名前」から、性別、立場、役割、関係性など、さまざまな情報を読み取って活用できることが多々あります。
「彼女は言った」って誰が言ったの (登場人物のうち女性は誰)? エリザベスとリズは異なる人物? この人とこの人は親しい関係? などなど…ちょっと知識があると解決できる疑問がいろいろあり…翻訳中に助かったことが何度もあります。
名前・呼び名から分かること、いろいろ
分かりやすいように日本語の例で考えてみましょう。
①親子へのインタビューの中で子供が親のことをパパ・ママと呼ぶのか、お父さん・お母さんと呼ぶのか、名前で呼ぶのかでも親子の関係性や家庭の躾やルール、子どもの性格のようなものが見えてくるのではないでしょうか。
②フィクションに出てくる登場人物が「次郎」という名前だったらどうでしょう。男性で次男かな? 現代的ではない名前だな (高齢人物?)、と思いますね (ただし、認識のギャップを狙って作者があえてそういう名前にした可能性もあります)。
③フィクションに登場する「ロウドウスキー」のような名前 (姓)。「-スキー」といえばロシア人の名前ですね (実際にはポーランド語由来ですが、ここでは詳しく突っ込みません)。でも、なんだか仕事が好きそうな「ロウドウスキー」という姓は実在するのか (だとすればどういう意味なのか)? これはワーカホリックを表す架空の姓なのか? が判別できたら読解がぐっと深まりそうですよね。
こういったことは自明であるように思うかもしれませんが、言語や文化が異なれば、当然ながら名前に込められる情報のタイプも変わってくるので、外国語を翻訳する際 (外国文学を読んだり、創作作品に外国人を登場させたりする際) にはその国・言語の名前についてちょっと調べてみると捗ります。
上記をかんたんにまとめると次のようになります。
姓名から
- 性別
- 年齢層
- 家系
- 親子、兄弟姉妹
- 出身地
- (フィクションの場合) 性格、役割
- (多くはフィクションの場合) 職業
呼び名・呼びかけ方から
- 性別
- 年齢層
- 職業
- 親しさ
- 人物の同定 (本名と愛称の関連付け)
- 口調 (フォーマル/カジュアル) の判断
- (フィクションの場合) 性格、役割
世界の名付けについて、その一端を垣間見ることができるのが『世界の名前 (岩波新書)』や『カラー新版 人名の世界地図 (文春新書)』といった本です。いろいろな国/地域の人名について、名付けの習慣や歴史など、面白いところがぎゅっとまとめられていて読み応え抜群です。名前について興味を持ったらぜひどうぞ!
創作論としての「名付け」を読解に活用する
とりわけフィクションにおいて、読者に作者の意図を伝えるためのテクニックが創作論としての「名付け」です。
創作論といえばオリジナル作品を作る創作者向けの話なのですが、これを逆に読解に活用することもできます。読むときに名前にどんな意図や手法が使われているかを意識すると、人物の立場や役割、関係性が見えやすくなり、作品の理解が一段深まります。
翻訳に関して言えば、情報を読み取れれば訳の精度は確実に上がるし、逆に見落とせば、原文の意図からずれた訳をしてしまうこともあります。
…というわけで、いろいろな人が使っている名付けの手法を知ることがとても参考になる!わけですね。
フィクションの名付けについて、分かりやすく解説してくれているのが『プロの小説家が教える クリエイターのための名付けの技法書』という書籍。
覚えやすいように、似たような名前の響きのキャラクターを複数登場させない、キャラクター名の文字数をばらけさせる、といったプロがさりげなく使っているテクニックや実在の地名、店名を使う場合の注意点などが掲載されています。
実際にフィクションで使われている名付けのテクニックは他にもありますが (あえて基本のセオリーに従わないことも多い)、初級編として本書を読むのはお勧めです。
ただ、日本語の創作に関する本なので、翻訳には別に役立たないかなぁ。
**ちょっと宣伝**
ロシア語の人名 (架空の名前を含む) を題材に、名前の知識を活かす方法について読書会や創作/翻訳の勉強会でお話しています。ご興味ありましたらご連絡いただけると嬉しいです (でもあんまり大規模な会だとビビります)。





















