もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

読書:『アンケート調査とデータ解析の仕組みがよ~くわかる本』

今回読んだ本はこれ。

 

『アンケート調査とデータ解析の仕組みがよ~くわかる本』

 

実務翻訳の翻訳対象の 1 つとして、アンケート (調査票) があります。

「アンケート」と一口でいっても、単発のシンプルなアンケートから経時的な変化を調べるための定期的なアンケートまで、その目的や内容はさまざま。

 

訳すときには、分析対象として有益な回答が得られるよう、注意が必要となります。

例えば、同一の調査項目あるいは質問文を使って繰り返し調査を行う繰り返し調査 (継続調査) を訳す案件では、クライアントからこんな指示が出されたことがありました。「既存訳がどんなにイマイチでも、誤訳や誤記がない限りそのまま使うこと」。

どうしてこんな指示がだされるかというと――、アンケートを作る側の論理を知る必要があります。ということで、『図解入門ビジネスアンケート調査とデータ解析の仕組みがよ~くわかる本』を読むことにしたわけです。

 

本書は、実際にアンケートを実施して分析する人向けの本で、内容の大半は解析方法に関する説明です。

質問文の作り方に関係するのは第 6 章のみで、抱いていた疑問を解消するには不十分なものでした。しかし、いろいろと翻訳に関連しそうなキーワードを拾うことができたので、今後どんな資料を読めばよいか、当たりをつける参考になりました。

気になった箇所をいくつか引用します。

 

同一の地点において、複数の集団を対象として、同じ内容の調査項目、あるいは質問文を用いて調査を行う方法が、比較調査です。国際比較調査などがその代表的なものです。(中略) 特に国際比較をする場合など、調査票 (質問文) を翻訳する際に注意が必要です。ある言語で作成された質問文を、異言語に翻訳し、そのあと元の言語に翻訳し直し (バック・トランスレーション)、チェック後、修正を行い、本質的な質問内容が同じになるような工夫がなされています。 (148 ページ)

標本調査の場合は、同一の母集団から調査ごとに標本抽出を行い、調査のたびごとに異なる調査対象者を対象として、同一の調査項目あるいは質問文を用いて繰り返し調査を行う方法が繰り返し調査です。(中略) パネル調査とともに縦断的調査と呼ばれています。 (150 ページ)

企業が実施するアンケートは、さまざまな種類に分類されるのですね。例えば「自社サービスの利用者に対して 1 回だけ行う満足度調査」なら横断的調査、「市場調査会社が全世界の企業を対象にテレワークの導入状況の経年変化を調べる」のであれば、国際比較調査かつ繰り返し調査といえるでしょう。ちなみに、前に挙げた「既存訳がどんなにイマイチでも、誤訳や誤記がない限りそのまま使うこと」という指示があったのも、繰り返し調査の翻訳でした。

質問文や回答選択肢を作成する際の言葉遣いなどをワーディングといいます。対象者の特性を考え、わかりやすい平易な言葉で、質問方法に適した文章であることを心がけることは言うまでもありませんが、具体的に、以下のようなことに注意しましょう。 (168 ページ)

翻訳に特に関係があるのは「ワーディング」でしょう。注意点として挙げられているのは、「あいまいな言葉や難しい用語」、「ステレオタイプ」、「ダブルバーレル質問」(1 つの質問文に 2 つの論点が入っている質問)、「個人的質問と一般的質問」(回答者本人にかかわる質問と世間一般についての意見を求める質問)、「実態方式と常態方式」(一定期間内の行動について尋ねる方法と、普段の行動について尋ねる方法)、「キャリーオーバー効果」、「威光暗示効果」、「黙従傾向」です。特に興味深かったのは、

その言葉が本来もっている意味内容に、特別な価値的ニュアンスや評価的ニュアンスが付与された言葉のことをステレオタイプの言葉といいます。(中略) 例えば「官僚」という言葉と、「国家公務員」 (一般職も含んではいますが) という言葉では、人々のもつイメージは違うのではないでしょうか。このような言葉が含まれている質問文では、回答者がその言葉のみに反応してしまい、偏った回答になってしまう可能性があります。回答に歪みを生じさせないためにも、中立的な言葉を用いることが望まれます。(168 ページ)

回答者本人にかかわる質問を個人的質問 (パーソナルな質問) といい、世間一般についての意見を求める質問を一般的質問 (インパーソナルな質問) と言います。2 つのうちどちらの方法で質問をするかにより、回答が異なってくる場合があります。(169 ページ)

英語から日本語に訳す場合、「You を明示的に訳出しない」というテクニックがあります。しかし、アンケートの翻訳で You の訳を省略すると、アンケート作成者は個人的質問を意図していたのに、アンケート回答者は一般的質問だと解釈してしまう…かもしれません。

回答者の中には、質問内容によらず、どの質問にも肯定的 (「賛成」・「はい」) に回答してしまう傾向を持っている人がいます。このような傾向を黙従傾向といいます。賛否を問う質問文では、「……賛成ですか。」と尋ねるのではなく、「……賛成ですか、それとも反対ですか。」と中立的な質問の方法をとることで、ある程度避けることができます。(170 ページ)

黙従傾向は英語では yes tendency といい、肯定傾向とも訳されるそう。

 

これらの語句でググると、質問文を作る際の注意点を解説したページや論文がいろいろとヒットします。単純に「アンケート 質問文 作り方」なんてキーワードで検索していたときとは検索結果の質がガラっと変わったので、検索キーワードの選び方も重要だな~ということを改めて実感しました。