もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

#どうやって翻訳者になったか 就活編

今年の春で翻訳業界に入って満 10 年になりました。

せっかくなので、このへんでどうやって翻訳者になったかを書こうかと。

 

翻訳者になる方法としてよくお勧めされるのは、翻訳者以外の仕事に就いた後、その知識と経験を生かして翻訳者になるのパターンと、翻訳会社内の翻訳者以外の職種 (チェッカー、コーディネーター、プロマネなど) から翻訳者に転身するパターンの 2 つです。

が、私の場合は、新卒で幸いなことに翻訳会社に内定して、社内翻訳者として OJT を受けて実力を磨くことができました。新卒ルートも、珍しくはありますが、ゼロではないのです。

 

就活ではいくつかの翻訳会社 (や企業の翻訳部門) と出会って選考プロセスを進めたものの、企業・業界研究や採用 (面接) 対策などは一般的な就活本に書かれているノウハウが通じないないことが多く、いろいろと苦労しました。そのときの試行錯誤 (↓) が参考になれば幸いです。

 

とはいえ、就活は 10 年ほど前 (2011 年) なので、下記の内容は現在とはずいぶん状況が異なる点にご留意ください。私が勤めていた翻訳会社も、今は新卒採用をやめてしまいました。

翻訳者を志したきっかけ (翻訳経験 0 からいきなり就活)

実のところ、就活をはじめるまでは翻訳者になれるとは考えていませんでした。

高校ではそこそこ英語の成績が良かったので、英語教諭から将来翻訳者になるのはどう? と言われたのが、産業翻訳を知ったきっかけでした。

そこで産業翻訳関係の雑誌を読んでみたのですが、かなり勉強しないと難しそうな印象。

大学でも、自分より英語ができる人が周りにいすぎて、自分が英語を使った専門職になれるとは想像も及びませんでした。

自分にもチャンスがあるかも? と思ったのは、大学での企業説明会に参加したとき。外国語大学だったことが大きいのですが、知財部門の翻訳職として新卒採用している、総合職で一括採用するが適性に応じて翻訳部門に配属があり得る、など、外大生向けに外国語を使える職種の 1 つとして社内翻訳者があるよ、というアピールが各社でありました (合同説明会では全く聞くことがない職種ですね)。会社説明会でお話しにきてくださる OBOG の先輩の中には実際に社内翻訳をしている方もいて、新卒→OJT→翻訳者というキャリアがあることを知りました。

ということで、一般企業や翻訳会社の社内翻訳者が選択肢の 1 つになりました (が、募集人数が少ないのでそれ以外の職種・業種でも就活をしました)。

情報収集

いざ、翻訳者を募集している会社を探そう! 業界研究しよう! と思っても、なかなか難しいんですよね。説明会を開催している企業が少なかったり、ツテがなくて OB 訪問できなかったり、就職系のサイトに翻訳職の情報がなかったり (あっても、想像で書かれていて実態と異なる情報も多い…)。

とはいえ、経験 0 からの翻訳者を目指すには、情報収集がまず大きなポイントです。

ということで、就活時に役に立った (& 立たなかった) 情報源について簡単にご紹介します。

就活サイト・合同説明会

就活サイト・合同説明会は、翻訳会社や、翻訳職を募集していると明言している会社は、なかなか見つからないのであまり期待しない方がよいです。

日本に翻訳会社は 2000 以上あると言われていますが、従業員数人~十数人程度、資金力が限られる小さい会社が多いです (ソース?)。就活サイトに情報を載せるのにも結構お金がかかるから…ね。いわんや合説をや。

大学のキャリアセンター

素質がありそうな学生のいる大学にピンポイントで、無料で求人を出せるので、特に語学系の大学だと求人が来ている可能性があります。就活サイトに掲載されていない新卒採用に積極的な企業と出会えるかも。ちなみに、私の就職先はここで見つけました。英語以外にも、イタリア語、フランス語、中国語の社内翻訳者募集を見かけました。

学内説明会

語学系の大学だと「翻訳者を志したきっかけ」で書いた通り、実は社内に翻訳職があって…という話が直接聞けるかもしれません。募集しているかどうかは別問題ですが。参加企業をあらかじめ調査しておいて、可能性が高そうなところに聞きに行くと良いです。

業界雑誌

 翻訳会社の求人情報がまとまっているのが『翻訳事典』と『産業翻訳パーフェクトガイド』。経験ナシでも応募可の会社が案外あります (実態がどうかはわかりませんが)。求人情報以外にも、特許翻訳、IT 翻訳、医療翻訳などの実務翻訳各分野の解説や、翻訳スキルアップに役立つ情報もたくさん詰まっているので読んでおくのがオススメ。

『翻訳事典』は 2019-2020 を最後に残念ながら休刊となってしまいましたが、書店で取り寄せたり、公立図書館で借りたりできるので、ぜひチェックしてください。

 

 

 

それから、『通訳翻訳ジャーナル』。求人情報はほとんど載っていませんが、翻訳のコンテストやイベントの最新情報を確認できます。翻訳者や翻訳会社の中の人のインタビューや記事は、業界研究に役立ちます。最近は Kindle で配信されるようにもなったので、入手しやすくなりました。

 

 

業界団体

翻訳関係の業界団体はいくつかあります (先述の『通ジャーナル』に一覧あり)。

中でも日本翻訳連盟の翻訳会社リストは要チェック。

業界イベント

コネがなくても、現役の翻訳者や翻訳会社の社員と話すきっかけを得られるのが業界のイベントです。学習者もウェルカムなイベントが多いので、都合が合えば参加をお勧めします (参加費も要るので学生にはつらいけど…)。

大規模な定例イベントだと、毎年秋に開催される「翻訳祭」、春に開催される「翻訳フォーラムシンポジウム」、日本では隔年開催の「英日・日英翻訳国際会議 (IJET)」。

単発のイベントは通訳翻訳 Web のセミナー & イベント情報ページをチェックすれば十分だと思います。

 

残念なことに、最近はコロナの影響で多くのイベントがオンライン開催に移行しており、翻訳業界人と知り合って話をするチャンスが激減しています。

各種 SNS

現役のフリーランス翻訳者、社内翻訳者、翻訳会社社員など、いろいろな人が発信している情報を入手できます。業界のブラックな面も見えてくることも。翻訳イベントや勉強会の情報もよく流れてきます。

Twitter だったら、例えば、「#実績ゼロから翻訳者に」「#どうやって翻訳者になったか」などのハッシュタグから、有益な情報が芋づる式に出てきます (どちらかといえばフリーランス翻訳者を目指す人向けですが…)。

企業研究

会社ごとに採用方針が異なるので、こうすれば絶対 OK ということは言えません (普通の就活と一緒ですね)。運次第の要素もあって、小規模な組織は募集人数も少ないので、早々に内定者がでて締め切られてしまうことも。未経験 OK の求人でも、経験アリの人がライバルとして応募してくることもありますから。

 

企業の採用ページや説明会で確認したのは、以下のような内容です。

  • 求められる語学力: ネイティブレベル?
  • 求められる専門知識: どの分野の知識か? 学ぶ意欲があればよいか?
  • 上記以外に求める能力・特性: IT スキル、コミュニケーション力、几帳面さ、丁寧さ、好奇心 etc.
  • 会社の翻訳サービスの売り: 翻訳スピード、訳文の正確さ、付加価値 (DTP、法務チェック、コンサル)  etc.
  • どのようなクライアントがいるか: 官公庁?学術機関? 一般企業だったらどのような業界?
  • 翻訳対象: 論文、マニュアル、広告、動画 etc.
  • 翻訳プロセス: 受注~翻訳~納品の間に、どのような職種がかかわって (例: 営業、PM、チェッカー、DTP)、どのような作業があって、翻訳者はその作業のうち何を担当するのか? どのようなツールを使うか? 

 

仕事内容については、翻訳者が単純に外国語を日本語 (またはその逆) に訳すだけではなく、顧客と翻訳方針 (訳文のスタイルなど) の相談や、DTP (翻訳物のデザインやレイアウト調整など) まで行う会社もあります。

能力としては、誤字・誤訳をせず、指示に従った成果物を生み出すため、几帳面さ、丁寧さはどの会社でも一様に求められます。当然ながら、履歴書やエントリーシートに誤字があると致命的です。さらに、前述のように顧客と相談したり、原文の書き手に質問したりと、社内外の人とのやり取りも翻訳者が行う会社では、誤解なく効率的にコミュニケーションできる能力が重視されます。

オフィスを訪問した際には、雰囲気もチェックしていました。みんな黙々と翻訳しているので静かです! という職場もあれば、コーディネーターさんがしょっちゅう電話していてにぎやかです、訳に悩んだら同僚と気軽に相談できます、という職場も。

 

社内翻訳者の仕事は会社によって本当に千差万別です。業界や企業について調べるほど、想像と違う!?ということが度々ありました。

とりわけ、思っていたのと違ったのは「仕事のやりがい」です。社内翻訳者の仕事の特徴として

  • クライアントから誉め言葉をもらう機会がない (少ない)
  • 翻訳対象の選り好みができず、与えられた仕事を断れない
  • 成果物に翻訳者の名前がクレジットされない (誰が訳したのかクライアントには分からない)

というものがあります (フリーランス翻訳者にも多少当てはまりますが、取引先を選べば回避可能です)。なので、お客さんから感謝の言葉が欲しいとか、自分の名前で勝負したいとか、新卒だと特に志望動機に書きがちですが、そういうのをやりがいとするのは難しいかもしれません。実際に、志望する会社の社員さんにやりがいを質問してみるのがお勧めです。

 

時間があれば OJT 編も書くかも?