もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

機械翻訳は使っていい? だめ? ~第30回JTF翻訳祭聴講中~

第 30 回 JTF 翻訳祭、リアルタイム開催は終了してしまいましたが、見逃し配信を引き続き視聴中です。

 

今回視聴したセッションは『機械翻訳サービスの提供及び利用に際しての法的留意点』です。

 

セッション概要

タイトルだけを見ると、機械翻訳サービスを提供するプロバイダーとそのユーザーを対象としたセッションのようです。しかし、本セッションで取り上げられている

  • 翻訳成果物に瑕疵があった場合の責任はだれが負う?翻訳者、翻訳会社の責任と賠償範囲は?(クライアントと結ぶ契約のこと)
  • 翻訳成果物を機械翻訳サービスを向上させるためのデータとして使ってよい?(機密保持契約、翻訳物の著作権のこと)

といった法的知識は、機械翻訳を使わないとしても、翻訳に関係する人ならだれでも知っておいて損のない情報です。ケース スタディ形式で大変分かりやすく解説されているので、翻訳祭に参加している方にはぜひおすすめしたいセッションです。

 

翻訳作業に機械翻訳サービスを使うのは法的にアリ?

さて。私がこのセッションを視聴しようと思ったのは、翻訳業務で機械翻訳サービス (Google 翻訳など) を使う是非に関心があるからです。

翻訳者が機械翻訳サービスを使う是非に関しては、自分の翻訳スキルや日本語能力に与える悪影響という点でいろいろ議論されていますが、それは今回はさておき。

人間が翻訳することを暗黙の了解として翻訳作業を請け負った文書を、Google 翻訳で翻訳して納品するのはアリなのか?翻訳会社との契約違反や、機密保持契約違反になるのでは?という点です。

翻訳会社から翻訳レビュー業務を引き受けるにつけ、機械翻訳を使ったのかな、と感じる訳文に出会うことが頻繁にあります。その際、この翻訳者は機械翻訳を使っている疑いがありますよ、と翻訳会社に報告すべきか否か、常日頃からモヤモヤしているのです。

 

セッション本編では扱われていませんでしたが、Q&A でこれに関する質問がありました。

Q. 機密保持契約を結ぶことによって、翻訳者に機械翻訳の使用を禁じることはできるのか?

A.  翻訳者が機械翻訳を使ったかどうかを証明する責任は、翻訳成果物を受け取った側 (翻訳会社やソースクライアント) にある。機械翻訳を使ったことを証明するのは難しい (たまたま訳が同じになったなど、いくらでも言い逃れができる)。

 

…とのこと。バレなきゃオッケーという感じみたいですね…。倫理観の問題か。

機械翻訳はバレる?

これは経験ですが、機械翻訳された訳文は、少量のチェックでは下手な翻訳者だなぁと思うだけですが、ある程度量をチェックするとかなりの確率で機械翻訳ではないかと疑いを持ちます。人間が侵さない類のミスが大量に残っているからです  (以前遭遇した例については『レビュー案件が Google 翻訳だった - もはある日記』で愚痴りました)。

その類のミスを完全に撲滅できるレベルの人だったら、機械翻訳を使うよりも自分で訳した方が速いし、品質も高いと思うんですよねー。

 

レビュー担当の立場からは、これは機械翻訳でしょ!と指摘はしません (…指摘するのもそろそろ飽きてきた。そうしたところで何になる?)。ただ、この翻訳者はミスが多いからもう依頼しない方がいいですよ、と会社に申し送るだけです。理由はなんにせよ、もう仕事を頼まなくなることに変わりはありませんから…。

 

機械翻訳を使うリスク

とはいえ、しれっと機械翻訳を使って翻訳を提出してくるかたにはご注意いただきたいのは、そのリスクです。

例えば、過去にはネット上の翻訳サービスに入力した文章が、ネット上にそのまま公開されていたなんて事例が存在します。

翻訳会社の中には、契約で機械翻訳の使用を禁止しているところもあります (以前、それも記事にしました)。

知らないうちに法律や契約に違反することのないよう、プロフェッショナルらしく仕事していきましょー。