もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

読書:『英語は決まり文句が8割 今日から役立つ「定型表現」学習法』

今回読んだ本はこれ。

『〇〇は XX が 9 割』というタイトルの本はたくさんありますが、その 9 割という数字は目を引くためだけで、根拠は特にないことがザラだったりします。

一方、本書のタイトルは、言語にかかわらず母語話者の言葉の5〜8割は「定型表現」である、という推計に基づくもの。

 


本書のいう「定型表現」とは、複数の単語から成るイディオム、コロケーション、二項表現、複合語、慣習表現、構文、固定フレーズを含む幅広い概念です。それだけいろいろなものが含まれていれば、使われる言葉の 8 割くらいが定型表現というのも納得がいきます。

だからこそ定型表現を学ぶ価値があり、本書ではサブタイトルにあるように、定型表現を学ぶ方法が詳しく取り上げられています (サブタイトルの方が本書の本質を捉えている感がある)。

 


翻訳の仕事は通訳と違って、好きなだけ辞書を引きながら訳せるので、わざわざ定型表現を勉強して覚えなくてもいいじゃーん、となりがちです。

ですが、英日翻訳に本書が役立つなぁと思った点が 2 つあります。

①定型表現の調べ方

文を読んでいて定型表現に出会ったとき、その表現の意味をどうやって調べるかは結構難しい問題です。そもそも、それを定型表現だと気づけるのか。また、定型表現は複数の語から構成されますが、見当違いの調べ方をするとうまく見つからないので、どの語で辞書を引くと該当の表現が見つかるのかなんかも問題になります。

本書には、定型表現を見抜く勘をどうやって磨くか、定型表現をどうやって辞書で調べると効率的か、を知るヒントが詰まっています。

②原文の誤りを見抜く

本書を読んでいて、原文の誤りを見抜くうえでも定型表現の知識が大きく役立ちそう、と感じました。

産業翻訳では、プロのライターではない普通の会社員が書いた文や、ライターの第一言語ではない言語で書かれた文を読んで訳すことも頻繁にあります。そういうわけで (?)、原文が変なこと、結構あるんですよねー。そして、その誤りが定型表現に混じっていることも多いのです。

 

例えば、定型表現の覚え違い。

「絶え間ぬ努力」という原文があったとして、「絶え間ぬ」って何?と思って調べても辞書にはありません。「弛まぬ努力」という表現を知らなければ、辞書を引けないわけです。

 

また例えば、予測変換の誤り。

以前、こんな文がありました。

The updated file will be stored in the sample folder as the source file.

(更新したファイルはソースファイルとしてサンプルフォルダーに保存されます)

この文は、文法的におかしくないのですが、前後の文脈に照らして読むと、sample folder がいきなり登場するなど、意味が通じませんでした。ですが、the same XXX as the~ という表現を知っていると、以下の文を推定できます。

The updated file will be stored in the same folder as the source file.

(更新したファイルはソースファイルと同じフォルダーに保存されます)

定型表現の知識があると、確信をもって原文を正すことができますね。

 

というわけで、もう少し意識的に定型表現を覚えてみよう、と思える本でした。