もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

読書:『比べて愉しい国語辞書』

もう 5 月も半ばなのでもう初夏といった雰囲気もあるのですが、春と言ったら辞書セール (主に物書堂の) ということで、辞書を物色しながら辞書に関する本を読む季節でもあります。

 

そこで、今回読んだのはこちら。

国語辞書に関する本というと、辞書編集者による辞書編纂の裏話的な本が多いのですが、本書は辞書ユーザーが辞書を読み比べて楽しむための本。

前者は自分が編集している辞書の話が中心になりがちですが、本書は複数の辞書を比べ、各辞書の特徴を発見して楽しむことに比重を置いていています。

 

タイトルどおり「辞書を楽しむ」がキーワードな本書ですが、実用的なのが第二章『徹底検証!目的別「ベストな一冊」はこれ』。

書店に行くと国語辞書がたくさん並んでいて、それぞれどう違うのか、どれを買うべきか悩んでしまいます。翻訳業界では「辞書はお金で買える実力」なんて言われることもありますが、手当たり次第に買っても、仕事で役立つ内容でなかったり、使いこなせなかったりしたら、本棚の肥やしになるだけです。

この章では、次の 6 つの目的 (①~③は発信、④~⑥は受信) に向いている辞書はどれなのかを明らかにしようと試みます。

 

①「その語は漢字でどう書くか」を知りたい

②「似た意味のことば」の使い分けを確かめたい

③適切な「言い換え表現」を探したい

④「明治の文学作品に出てくる難しいことば」を理解したい

⑤「現代の小説に出てくることば」の意味を知りたい

⑥「毎日の暮らしに密着したことば」を調べたい

(本書 P.69~70)

 

参考になるのは、複数の辞書を用意し、ある単語が載っているかどうか、単語の説明内容はどうかを比べるプロセスです。

同じ単語でも辞書ごとに説明内容や詳しさが違うことが示され、特定の目的のために最初に引くべき辞書や、複数の辞書を引く重要性がわかる、という点がすばらしいのはもちろんなのですが、上記の ⑥ つの目的に当てはまらない目的に使う辞書を選ぶ際にも比較プロセスをまるっと借用できそうだと感じました。

 

上記以外の目的というのは、「みんなが知っている言葉を知りたい」というようなもの。例えば、高齢者向けの説明書を書いていて、この言葉は専門的すぎないか?と疑問に思ったときに、基準とする目的です。

単語数が多い辞書ほど、知らない言葉を調べるときにとても便利です。しかし、一般向けで、誤解なく読んでほしい説明書のような文書では、みんなが知っている言葉、(知らないとしても) どの辞書でも調べられる言葉を使いたい。というわけで、厳選された言葉だけが載っているコンパクトな辞書も、ある言葉を使うべきか否か、注を付けるべきかどうかを判断するのに案外役立ちそうです。

その目的に適う辞書はどれ? というのは本書からはわからないので、自分で比較を実践!するしかないですね~