もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

訳のアイデア:instrument

イデアというか愚痴?

 

IT 用語は新しい言葉が次々でてくるものの、カタカナにすればいいよねー、なんて言われたりもするんですが、カタカナにするとしても表現方法がいろいろあるので悩むこともしばしばです。

 

最近遭遇したのが instrument という動詞。これがまぁ、日本語ではいろいろに表現されます。例えば、ちょっとググっただけで以下の表現が見つかります。

  • インストルメントする
  • インストルメントを行う
  • インストルメンテーションする
  • インストルメンテーションを行う
  • インストルメント化する
  • インストルメント化を行う

これらがすべて似たような文脈で使われているのです。小さいことは気にしない人も多いのですが、「インストルメントする」と「インストルメント化する」が同じページで使われていると、この 2 つは意味が同じなの? 違うの!? なんて混乱したり。

自分で文を書くときも、「インストルメントする」と「インストルメンテーションを行う」のどっちがわかりやすい表現なんだろー、と悩んだり。まぁ、どれか一つが定訳化するのは難しいとは思いますが(「シミュレートする」「シミュレーションする」みたいに揺れている単語はたくさんある)。

さらに、助詞をどうするかについても、調べれば調べるほど分からなくなります。「を / で / にインストルメントする」?

 

さて、この  instrument、機械・IT 関係の分野では、名詞として出てきた場合、測定機器、計器という意味で使われることが多いです。

辞書を見ると名詞の意味しか載っていないこともよくあるのですが、動詞として使った場合、「to equip with instruments especially for measuring and recording data」という意味になります(出典:Instrument Definition & Meaning - Merriam-Webster)。インストルメント(機器またはコード)を対象(機械またはソフトウェア)に取り付けて(実装して)性能を測定したり、動作状況を監視したりできるようにする、ということですね。

 

したがって、「Javaアプリケーションをインストルメントする」なら、「Javaアプリケーションに何らかのコードを追加して動作を監視できるようにする」とか、そんな意味になります。

一方で、「APM(アプリケーションパフォーマンス監視)エージェントをインストルメントする」なんて使い方もあります。この「APMエージェント」は監視するためのインストルメントに相当します。そのため、「(何らかのソフトウェアに)APMエージェントを追加して、(そのソフトウェアを)監視できるようにする」と解釈できます。

つまり、日本語の「インストルメントする」は、「監視対象のソフトウェア」を目的語に取ることもあれば、「監視を可能にするためのインストルメント(コード、エージェント、コンポーネント etc.)」を目的語に取ることもあるのですね。紛らわしい! 後者に関しては「~でインストルメントする」と言った方がいいと思うのだけど、日本語ではインストルメントを目的語に取る用法も一般的に使われていくのかしら。

 

「インストルメント化する」という表現については、個人的にはちょっと気持ち悪いな、と思います。

「~化」が付く言葉には、「映像化」「老朽化」「幼児化」「多様化」…などいろいろありますが、これらを言い換えると「映像にする/なる」「古くなる」「幼児らしくなる」「多様になる」など、ある状態への変化を表すことがわかります。

「インストルメント化する」であれば「インストルメントになる」あるいは「インストルメントにする」? インストルメントは、前述のとおり名詞として使うと、測定機器を意味します。というわけで、「Javaアプリケーションをインストルメント化する」を「Javaアプリケーションをインストルメントにする」と言い換えられるか? というと、それは言えないのでは。