先日…といっても随分時間が経ってしまいましたが、翻訳祭に参加してきました。
遠いし…参加費用もそれなりにするし…知り合いもあんまりいないしなぁ…ということで参加を決めるまで結構悩んだのですが、終わって振り返ってみればいろいろと得るものがあり、また参加したいと思っているのでした。
前日入り
金沢には翻訳祭の前日昼頃に到着して知人とお茶。夜は他の翻訳祭参加者との飲み会に誘っていただきました。
お勧めの翻訳祭セッションの情報や、金沢の観光情報を得られて有益でした。
何より、翌日の懇親会で知り合いが誰もいない状態にならないと思うと、ちょっと安心できるというか…。
前日から現地入りして他の参加者とコミュニケーションを取っておくのはお勧めです。
セッションとか
一番聞きたかったのが基調講演。九段先生の話が聞きたくて金沢に行ったようなもので、これがなければオンライン参加で済ませていたかもしれない…。
純文学とは文章力や表現力などの芸術性を重視して書かれるものである…とはいうものの、実際のところは特定の雑誌 (五大文芸誌) に掲載されたものを指すジャンルだったりもするそうで。雑誌に小説を載せたい人はいっぱいいるので、競争の激しい世界です。やっと雑誌に掲載されたとしても読者は微々たるもので、賞を取って単行本化しないと生き残っていけない……。そんな環境の中で執筆をつづけている作家は、何が良い文章だと考えているのか? どうやって言葉を選んでいるのか? 私は常々、知りたいと思っているのです。
九段先生の芥川賞受賞作『東京都同情塔』は、塔の建設とその建築家の話なのですが、その実、その建築家の言葉感の話。物語冒頭のカタカナ語が自分にはしっくりこないというところから、ポリコレ、言葉狩り、etc に対する主人公の意見が語られる。作品のあらゆるところに、主人公の言葉への執着が描かれていて、これを読んでいるあなたはどうなの、と問われている気分になります。
その後参加するセッションはスピーカーに直接質問をしたいかどうか?で選びました (質問ないなら後日配信で見ればよいので)。
これと言って気になるセッションがなかったら、出版翻訳者がスピーカーを務めるセッションが良いかも? セッション後に訳書を購入したり、サインしてもらったりできるのは、現地参加ならではです。
懇親会
2 時間を長く感じるか短く感じるかは自分次第…。
今年は SNS でつながっている人たちにご挨拶させていただき、さらにそのお知り合いもご紹介いただいて…でめいっぱい時間を使えました。
参加証ケースに入れる用に文字の大きな名刺を用意しておくといいかな。
↓ のケースに参加証を印刷して入れておくのですが (中に入れている白い紙が名刺サイズ)、参加証の文字が小さくて名前の視認性が悪いので、名前は知っているけど顔はわからないって人が見つけづらいのです。
服装とか
毎回迷うのが服装です。ドレスコードがないのでどんな服でも問題ないのですが…。
話のネタになったり、専門性をアピールできる柄の T シャツなんか良さそうですねー。
翻訳ツーリズム@金沢
観光の立ち寄り先に翻訳に関係する施設を入れてみよう、ということで遠出するたびに実践しています。
今回の立ち寄り先の記録。
石川県立図書館
新築移転したばかりの新しい図書館。
十進分類に従って排架されているだけでなく、テーマに従って集めた本を展示しているコーナーもあって (しかもナアナアではなくきちんと選書されている…!)、使いやすさと未知との出会いを両立している素敵な施設でした。
翻訳関連の資料も充実していて、さすが県立図書館…!(市立図書館レベルではなかなかこうはいかない) という感じです。
4 階の本の歴史を巡る展示に、翻訳文学も取り上げられています。
古い本も普通に手に取れてしまいます。
オリジナルと訳書の比較展示。
翻訳文学に関する本など。
鈴木大拙館
浅学のためまったく存じあげなかったのですが、鈴木大拙は仏教、禅についての著作を英語で著し (あるいは翻訳し)、日本の禅文化を海外に紹介した方で、海外での知名度も高く、この施設には外国人観光客が数多く訪問しているとのこと。
鈴木大拙は1870年生まれで、文明開化の時代に青年時代を過ごしています。そのころはエリートたちが海外に渡っていろいろな知識や物を日本に取り入れようとしていた時代ですが、逆に日本から海外に思想を伝える活動をしたというのが興味深いですね。
金沢ふるさと偉人館
金沢ゆかりの「近代日本を支えた偉人たち」の生涯や業績を紹介する施設です。
展示を見ていくと気づくのが、海外から学びながら業績を上げている人の多さです。
全て英語で書かれたノートであったり、学習に使った洋書・翻訳書であったり、館で紹介されている偉人が翻訳した書籍であったりといった展示物や…さらには「遺伝子」という言葉を最初に翻訳して使ったのは藤井健次郎であるとか、アイソトープを「同位元素」と翻訳したのは飯盛里安であるとかいう翻訳語に関する業績の紹介から、当時海外のものを日本に取り入れるときにはまずは外国語を学ばねばならず、国内に広げるには翻訳をしなければならなかった…というのが実感を持って伝わってきます。
金沢ふるさと偉人館のサイトにも各人の業績が詳しく紹介されているのですけど、モノが目の前に展示されている (すごい物量だ…) というのは、「読んで知る」とはまた別の経験。