もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

翻訳祭が終わって

しばらく忙しくてブログを書く暇もありませんでしたが…

翻訳祭の見逃し配信期間も終わってそろそろ 1 か月になろうとしています。

 

配信期間終了ギリギリにまとめて一気見したのですが、中でも興味深かった講演は、「新しい翻訳英文法: 訳し上げから順送りの訳へ」でした。今回の翻訳祭の中で数少ない翻訳スキルアップに関係する講演です。講演は過去の研究結果がふんだんに盛り込まれた、非常に情報量の多く、1 回聞いただけでは消化しきれないもので…いまもどうしたらこの手法をうまく身に付けられるものかと頭を悩ませながら実務に取り組んでいます。

 

この講演を聞こうと思ったのは、もともと、「順送り」の手法にとても興味があったから…というかこの手法を身に着けねばならないと最近切実に考えるようになっていたからです。

その背景のひとつは、字幕翻訳案件が増えたこと。動画の説明の順序と字幕の説明の順序を一致させる必要があるので、必然的に順送りの訳が求められます。

もうひとつは、ドキュメントの翻訳で、どのようにすれば読者に理解しやすい順序で情報を提示できるのかを知りたかったのからです。

 

さて、「訳し上げ」というのは、学校で習うような後ろから前に訳す方法です。
たとえば (すごーい雑な例ですが)、「A is B because C is D. 」を「C は D だから A は B だ」とか、「I use A to B」を「B するために A を使う」と訳す感じです。

一方、「順送りの訳」というのは、原文の論理に合わせた順序で訳す方法です。
上の例を使えば「A は B だ。なぜなら C は D だからだ」や「A を使用して B する」のようになるでしょうか。

 

上の例は非常に簡単なものでした。これくらい短い例では、訳し上げでも順送りでも、読者の理解には大きく影響はないでしょう (とはいえ、後に来る文によっては、どちらか一方の手法の方が適していることはよくあります)。

 

しかし、文が複雑になると (特に、原文で関係代名詞が使われ、修飾関係が複雑になると)、訳し上げでは非常に分かりにくい訳になってしまいます。

複雑な例として、この講演ではミル『自由論』の 1 文が 60 語近い文が取り上げられていました。接続詞や関係詞が複数出てくるので、そもそも英文解釈をしっかりしないと構造を取り損ねてしまいそうな文です。この文を順送りに訳す際は、その直前の文を見て、問題の文を見て、さらにその直後の文を見て、何が話の焦点か、何が旧情報か新情報か、...と分析していき、どのような順番で訳すのかを決定します (雑な理解…)。

 

CAT ツールを使った訳に対する批判で、「1 文 1 文を見ると正しくても、全体を通して読むと 1 文 1 文が論理的につながっていなくて意味が分からない (1 文ごとに原文と訳文をペアにすることを第一に考えているから、前後の関係を疎かにして翻訳してしまう)」というのがあります。そのような CAT ツール調な翻訳にならないための方法の 1 つが、この講演で取り上げられたように、前後の文を考慮して訳す順序を決定することなのかな、とぼんやり考えたのでした。

 

本講演では、参考文献が豊富に示されており、このトピックを掘り下げるうえで気になるキーワード (テーマ、レーマなど) もたくさん仕入れることができました。

2022 年はそれらのキーワードを調べたり参考文献を読みつつ、自分の考えをまとめていきたいなぁと思っております。