もはある日記

岡山県の西端で、英日翻訳をしています。ここに「も」ステキなもの「は」いっぱい「ある」よ!

読書:『AIに負けない子どもを育てる』

先日、新井紀子さんの『AIに負けない子どもを育てる』がKindle Unlimited に来ていたので読みました。

この本はビジネス書大賞を獲ったり、各種メディアで紹介されて話題になった『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の続編で、同書で紹介されていたリーディングスキルテスト(RST)の内容について、さらに詳しく紹介し、子どものリーディングスキルを伸ばすにはどのような取り組みができるか?を提案しています。

全体的には、RST の説明が半分、子どもの指導案半分…で主に教育者向けの本ですが、文章を書く者として、考えさせられる点がいくつかありました。

 

本書を読んでいて面白いな、と思ったのは、このテストの分析がライティングにも生かせそうな点です。

 哲学者の野矢茂樹さんと対談したときのことです。野矢さんは仏教問題 (第 6 章) について、「あの文は、3 つの文に分けたら正答率が上がるんじゃないか」と言うのです。実は『AIvs.教科書が読めない子どもたち』が出版されて以降、そこに掲載したいくつかの問題について、「こう書けば読み間違えないはずだ。(だから教科書の書き方がよくない)」とか、「元の文が『です・ます調』なのに、『である調』に書き換えたから小中学生は解けなかったのではないか」などのコメントを様々な方からいただきました。

 こういうとき、私たちは、その仮説が正しいか否か、すぐに調べることができます。野矢さんが提案した書き方で出題してみて、元の問題と正答率や難易度を比べればよいのです。(Kindle 位置 1564)

…というように、複数の主述ペアのある長い文章を 3 つに分けたら正答率が上がったという例が紹介されています。(引用中の仏教問題はこちらの出題形式見本で見ることができます)

世の中には「悪文の直し方」を指南する本は多数ありますが、どの本も経験則による内容が多いように思います (経験則が悪いのではありませんし、妥当なものもたくさんあります)。しかし、どう書くと誤読されにくくなるかを、このように大規模にデータを取って客観的に検証する試みは初めて見ました。

 

そして、耳が痛かったのはこの部分です。ライターあるあるすぎて…。

 大学の先生に感想を聞くと、一番多いのは「僕が書いたものを出典にしてくれれば、こういう変な文章は出てこない」「むしろ新書を出典にした方がいい (僕も新書を出している)」です (苦笑)。

 どなたも、自分の分野の文章、特に自分が書いた文章だけは読みやすくて、それ以外は「読みにくい」と思うようです。そして、自分が書いた文章を誤読する人に対しては「読解力がない」と嘲笑し、自分が読めない文章は「読みにくい文章」と非難する。(Kindle 位置 1158)

翻訳者としては、原文のメッセージを誤って伝えることのないよう、常に表現には気を付けたいものです。

 

リーディングスキルテスト(RST)とは

AI が読解力をもつかどうかを判断する研究の過程で作られ得た、読解力を多面的に診断するためのテストです。

RST では、短文を正確に読むスキルを以下の 6 分野に分類して、テストが設計されています。

  1. 係り受け分析
  2. 照応解決
  3. 同義文判定
  4. 推論
  5. イメージ同定
  6. 具体例同定

詳しくは、「設問の特徴と例題 - 教育のための科学研究所」をご覧いただくのが正確かつ分かりやすいと思います。

このテストが、AI が間違いやすい/得意な問題は何かの調査に加えて、人間の読解力の判定、分析にも使われているわけです。